| ユウ: はあ、はあ……。アヤちゃん、どうしよう。シャツが多すぎるよ! |
| アヤ: ユウさん、ちょっと落ち着いて。そんなに急がなくても大丈夫だよ。 |
| ユウ: 落ち着いていられないよ! ここのお店、服の種類が多すぎるんだ。青だけで10種類もあるじゃないか。どれを選べばいいのか、全然わからないよ……。 |
| アヤ: それは、ここがいいお店だからだよ。ゆっくり見れば大丈夫。時間はまだあるから。 |
| ユウ: 時間がないんだよ。デートは今夜なんだ! |
| アヤ: えっ、今夜? それは急だね。 |
| ユウ: そうなんだよ。レストランの新しいメニューなら、何週間も前から完璧に計画できるのに……。自分の服のことになると、なんの計画もないんだ。情けないよ。 |
| アヤ: まあまあ。そのために私が一緒に来たんでしょ? 私に任せて。 |
| ユウ: ああ、本当にありがとう。アヤちゃんがいてくれて助かったよ。 |
| アヤ: で、まずは基本からね。そのデート、どんな場所に行くの? 服はお店の「雰囲気」に合わせなきゃダメだよ。 |
| ユウ: 場所はね、街の中心にあるモダンなビストロなんだ。 |
| アヤ: へえ、素敵だね。どんな感じのお店? |
| ユウ: 料理はすごく美味しいし、内装もきれいだよ。でも、高級なフランス料理店みたいに、白いテーブルクロスがあるような堅苦しい場所じゃないんだ。 |
| アヤ: なるほど。照明は? |
| ユウ: 少し暗めで、ロマンチックな感じかな。 |
| アヤ: わかった。それなら、ドレスコードは「スマートカジュアル」だね。 |
| ユウ: スマート……カジュアル? なにそれ? スマートな格好? それともカジュアルな格好? どっち? |
| アヤ: その中間だよ。「スマートカジュアル」っていうのは、ビジネススーツと、家で着るTシャツのちょうど真ん中くらいのスタイルのこと。 |
| ユウ: 真ん中かあ……。難しそうだな。 |
| アヤ: 難しくないよ。要するに、「きちんとしているけど、頑張りすぎていない」感じ。さあ、探してみよう。 |
| ユウ: あ、これなんかどう? この黒いシャツ! |
| アヤ: うーん……黒? |
| ユウ: 黒なら安全だし、プロっぽく見えるだろ? 生地もピカピカしてて、かっこいいと思うんだけど。 |
| アヤ: ユウさん、それはちょっと……やめたほうがいいかな。 |
| ユウ: えっ、どうして? ダメ? |
| アヤ: まず、襟が硬すぎるよ。それに、そのピカピカした生地は、デートには向いてないかな。 |
| ユウ: そうかなあ。強そうに見えると思ったのに。 |
| アヤ: それを着たら、レストランのウェイターさんに間違えられるかもしれないよ? |
| ユウ: うわっ! それはまずい! |
| アヤ: でしょ? ユウさんはレストランのオーナーなんだから、店員さんに見えたら仕事モードになっちゃうよ。 |
| ユウ: 本当だ……。危なかった。注文を取りに行っちゃうところだったよ。ありがとう、アヤちゃん。 |
| アヤ: 黒は重すぎるから、もっと優しい色にしよう。ユウさんの人柄に合うような。 |
| ユウ: 優しい色って、例えば? |
| アヤ: そうだね……。青とか、オリーブグリーンとか。親しみやすい色がいいと思う。 |
| ユウ: 青か……。うん、青がいいな。青を見ると落ち着くって言うし。今の僕には「落ち着き」が必要だ。 |
| アヤ: じゃあ、これを見て。この水色のシャツ。 |
| ユウ: お、触り心地がいいね。柔らかい。 |
| アヤ: これは「オックスフォードシャツ」っていうんだよ。コットンだから通気性がいいし、デザインも定番で安心感があるの。 |
| ユウ: 定番か。それはいい響きだね。リラックスして見えるけど、安っぽくない。 |
| アヤ: そう、まさに「スマートカジュアル」にぴったり。じゃあ、まずはこれを試着してみて。 |
| ユウ: よし、行ってくる。 |
| ユウ: ……アヤちゃん、着てみたけど……なんか違う気がする。 |
| アヤ: うーん、やっぱりね。サイズは合ってるけど、形が合ってないわ。 |
| ユウ: なんか、僕が四角い箱みたいに見えない? |
| アヤ: ちょっとね。肩の縫い目が落ちてるし、お腹の周りの生地が余りすぎてる。だぼだぼして見えるよ。 |
| ユウ: やっぱり僕はシャツが似合わないのかな……。 |
| アヤ: 違うよ、ユウさん。それは「レギュラーフィット」だからだよ。ユウさんは普段よく動くし、体型が引き締まってるから、この形だと大きすぎるの。 |
| ユウ: じゃあ、どうすればいいの? |
| アヤ: 「スリムフィット」っていう形があるの。もっと体に沿ったデザインだよ。ちょっと待ってて、探してくる。 |
| アヤ: はい、これ! 同じ色のスリムフィット。これを試してみて。 |
| ユウ: ありがとう。今度こそ……。 |
| ユウ: ねえ、アヤちゃん。着替えてる間にちょっと聞いてもいい? |
| アヤ: うん、なに? |
| ユウ: 花って、持って行ったほうがいいのかな? |
| アヤ: うーん、そうだね……。大きな花束はやめたほうがいいかな。 |
| ユウ: え、ダメなの? 映画だとよく見るけど。 |
| アヤ: 初めてのデートで大きな花束をもらうと、相手はプレッシャーを感じちゃうかも。「お返ししなきゃ」って気を使わせちゃうし、持ち歩くのも大変でしょ? |
| ユウ: ああ、確かに。レストランで大きな花束を抱えて食事するのは大変だね。 |
| アヤ: もし渡すなら、一輪だけの花とか、小さな野の花みたいなのがいいよ。それなら「可愛いな」って思ってもらえるし、重くないから。 |
| ユウ: なるほど、一輪か。それなら僕にもできそうだ。 |
| アヤ: でもね、一番のプレゼントは「物」じゃないよ。 |
| ユウ: え? じゃあ何? |
| アヤ: 相手の話をよく聞くこと。楽しい会話をすることだよ。 |
| ユウ: 会話かあ……。緊張して変なことを言っちゃいそうだ。 |
| アヤ: 気をつけてほしいのは、「レストラン経営者モード」にならないこと! |
| ユウ: え? どういうこと? |
| アヤ: 料理の味とか、店員さんのサービスについて批評しちゃダメってこと。「このソースは塩が足りない」とか「今の接客は遅い」とか言ったら、彼女は楽しくないでしょ? |
| ユウ: うっ……。言いそうだった。気をつけるよ。ただ食事を楽しむことに集中する。 |
| ユウ: どうかな? 今度はいい感じだと思うんだけど。 |
| アヤ: わあ! すごくいいよ、ユウさん! |
| ユウ: 本当? さっきの箱みたいじゃない? |
| アヤ: 全然違うよ。背筋が伸びて見えるし、すごく自信があるように見える。完璧なサイズだね。 |
| ユウ: 袖が少し長い気もするけど、これは大丈夫? |
| アヤ: あ、それはね、テクニックがあるの。袖のボタンを外して、二回折ってみて。肘のすぐ下くらいまで。 |
| ユウ: こうかな? ……お、なんかいい感じだ。 |
| アヤ: そうそう。手首が見えるとすっきりするし、時計も見えてかっこいいよ。これが「スマートカジュアル」のコツ。 |
| ユウ: なるほど! 腕が自由になった感じで動きやすいね。 |
| ユウ: でも、無地の青だけだとちょっと寂しくない? このシャツみたいに、柄が入ってるほうが面白くないかな? |
| アヤ: え? ……それ、パイナップルの柄? |
| ユウ: そう! かわいいだろ? 僕、食べ物が好きだし、個性を出すのにいいかなって。 |
| アヤ: ダメ。絶対ダメ。 |
| ユウ: 即答だね……。 |
| アヤ: 最初のデートなんだから、シンプルが一番なの。変なシャツに注目されたくないでしょ? 相手には、シャツじゃなくてユウさんの顔を見てほしいんだから。 |
| ユウ: わかったよ。パイナップルは諦める。 |
| ユウ: じゃあ、こっちのストライプのシャツは? リネン素材だって書いてあるよ。涼しそうでいいんじゃない? |
| アヤ: リネンかあ……。夏らしくて素敵だけど、シワになりやすいよ。 |
| ユウ: シワ? |
| アヤ: 座ったり動いたりしてると、すぐにくしゃくしゃになっちゃうの。 |
| ユウ: それは困るな。僕は緊張して動き回ると思うから、デートの終わりにはゴミ袋みたいになってるかも……。 |
| アヤ: じゃあ、リネンはやめておこう。さっきの青いオックスフォードシャツに決定ね。 |
| ユウ: よし、シャツは決まりだ。次はズボンだね。 |
| ユウ: ズボンはこのままでいいよね? 履き慣れてるし、ポケットもたくさんあって便利なんだ。 |
| アヤ: カーゴパンツ? ダメダメ! その大きなポケットに何を入れるつもり? |
| ユウ: え? お財布とか、スマホとか、もしお腹が空いたときのためのスナックとか……。 |
| アヤ: デートにスナックは持って行かないで。カーゴパンツはカジュアルすぎるよ。 |
| ユウ: お気に入りなんだけどなあ。 |
| アヤ: スマートカジュアルには、濃い色のデニムが一番。穴が開いていない、きれいなやつね。 |
| ユウ: 濃い色のジーンズか。これなんかどう? |
| アヤ: いいね! その濃い藍色は、さっきの水色のシャツと相性抜群だよ。 |
| ユウ: 靴はどうしよう? 走れるスニーカーがあるんだけど。 |
| アヤ: うーん……。これからマラソン大会に行くわけじゃないでしょ? |
| ユウ: 逃げ出したくなった時に便利かなって……。 |
| アヤ: 逃げちゃダメ! 茶色の革のブーツか、おしゃれなスニーカーにしよう。 |
| ユウ: 茶色? 黒じゃなくて? |
| アヤ: 青いシャツとジーンズには、茶色がよく合うの。「補色」って言って、お互いを引き立てる色なんだよ。 |
| ユウ: へえ、料理の盛り付けみたいだね。彩りが大事なんだ。 |
| アヤ: そうそう! その感覚があれば大丈夫。あと、最後に大事なルールがあるよ。ベルトは持ってる? |
| ユウ: ベルト? 普段はあんまりしないけど……。 |
| アヤ: 今回はシャツをズボンの中に入れるから、ベルトは必須だよ。シャキッとして見えるからね。 |
| ユウ: どんなベルトがいいの? |
| アヤ: ここがテストに出るよ。ベルトの色は、必ず靴の色と合わせること。 |
| ユウ: ベルトの色は、靴の色と合わせる……。つまり、茶色の靴なら、茶色のベルト? |
| アヤ: 正解! これを守れば、すごくおしゃれに見えるから。 |
| ユウ: おお……。鏡の中の自分が、別人みたいだ。 |
| アヤ: どう? 気分は? |
| ユウ: すごくいいよ。なんだか、デートが成功するイメージが湧いてきた。 |
| アヤ: それはよかった。 |
| ユウ: この服は、僕の「鎧(よろい)」だね。これを着ていれば、失敗して笑われることもない気がする。守られている感じがするよ。 |
| アヤ: ユウさん、服は自信をくれるけど、一番大事なのは中身だよ。 |
| ユウ: 中身? |
| アヤ: そう。完璧になろうとしなくていいの。もしスープをこぼしちゃっても、笑ってごまかせるくらいの余裕があれば、それが一番のかっこよさだよ。 |
| ユウ: そっか。失敗しても大丈夫、か。……ありがとう、アヤちゃん。本当に最高のコーチだよ。 |
| アヤ: ふふ、どういたしまして。「貧乏人のセラピスト」って呼んでくれてもいいよ? |
| ユウ: いやいや、感謝しきれないよ。お礼に、来週僕の店でランチをご馳走するよ。一番いいコースでね。 |
| アヤ: やった! 楽しみにしてる。 |
| ユウ: その時に、今日のデートの「完全レポート」も提出するから、聞いてくれる? |
| アヤ: もちろん。いい報告を待ってるよ! さあ、レジに行こう。 |
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