Lesson Transcript

マーガレット: あら、石川さん。おはようございます。
石川: あ……、おはようございます、マーガレットさん。
マーガレット: 今日は早いですね。お仕事ですか?
石川: いえ、あの……ちょっとコンビニへ。氷を買いに。
マーガレット: 氷? 朝からですか?
石川: ええ、まあ。アイスコーヒーでも飲もうかと……。じゃあ、急ぐのでこれで。
マーガレット: 待ってください、石川さん。顔色が悪いですよ。
石川: そ、そうですか? 寝不足かな。大丈夫です。
マーガレット: その手、どうしたんですか? さっきからずっと胸のあたりを押さえていますけど。
石川: なんでもないです。ちょっと……ぶつけただけで。
マーガレット: 嘘ですね。痛そうにしています。私は看護師ですよ。見せてください。
石川: はあ……。やっぱりマーガレットさんには隠せませんか。
マーガレット: いいから、早く見せて。
石川: 実は、これなんですけど……。
マーガレット: うわっ! 石川さん、これ、ひどい火傷じゃないですか! 赤くなってるし、水ぶくれもできてる!
石川: いやあ、ドジ踏んじゃって。でも大丈夫です。ちゃんと薬を塗りましたから。
マーガレット: 薬? 何か変な匂いがしますけど……これ、何ですか? 茶色い……。
石川: 味噌です。
マーガレット: ……はい? 味噌? お味噌汁の、あの味噌ですか?
石川: ええ。子供の頃、おばあちゃんに教わったんです。「火傷には味噌を塗っておけば治る」って。冷たいし、いいかなと思って。
マーガレット: ダメです! 絶対にダメ! それは昔の迷信ですよ。
石川: え、そうなんですか? でも、ヒリヒリするのが少し治まったような……。
マーガレット: それは気のせいです。油や味噌を塗ると、熱が逃げなくなって、火傷がもっとひどくなるんですよ! 細菌が入るかもしれません。今すぐ洗い流さないと!
石川: ええっ、悪化するんですか!?
マーガレット: コンビニに行ってる場合じゃありません。石川さんの部屋に戻りましょう。すぐに処置します!
マーガレット: はい、ここに手を出して。このまま水を出しっ放しにします。味噌をきれいに洗い流して。
石川: うう……水が冷たい……。しみます……。
マーガレット: 我慢してください。患部を冷やすのが一番大事なんです。このまま15分、冷やし続けますよ。
石川: 15分!? そんなに長くですか? もう感覚がなくなってきましたよ。
マーガレット: まだダメです。いいですか、石川さん。**火傷の原因がなくなっても、熱はまだ皮膚の組織の中に残っているんです。水でその熱を取り除かないといけません。**
石川: なるほど……。「熱が残っている」か。料理の余熱調理みたいなものですね。
マーガレット: まあ、そんな感じです。お肉じゃなくて、あなたの手ですけどね。
石川: はあ……情けないなあ。
マーガレット: ところで、どうしてこんな火傷を? 料理中ですか?
石川: ……はい。実は、新しいレシピを試していたんです。フランス料理の難しいソースを作ろうと思って。
マーガレット: へえ、すごいですね。石川さん、料理がお好きなんですか?
石川: ええ、まあ。もっと腕を上げたくて。……でも、その時、窓の外に鳥が見えたんです。
マーガレット: 鳥?
石川: そう、カワセミです! 東京の真ん中でカワセミが見られるなんて、奇跡ですよ! あの青い羽がキラッと光って……。
マーガレット: それで?
石川: 慌ててカメラを取ろうとしたんです。ファインダーを覗きながら手を伸ばしたら……そこにあったのはカメラじゃなくて、熱々のフライパンでした。
マーガレット: ふふっ、ごめんなさい。笑っちゃいけないけど……面白いですね。
石川: 笑わないでくださいよ。自分でも馬鹿だと思いますから。
マーガレット: 石川さんって、以前は南極にいらしたんですよね? 極寒の地でサバイバル生活をしていた人が、東京のマンションで小鳥に気を取られて火傷するなんて。
石川: まったくです。南極の嵐より、台所のフライパンの方が危険でした。
マーガレット: でも、カメラがお好きなんですね。
石川: はい。風景や動物を撮るのが趣味で。南極でもずっとペンギンや氷山を撮っていました。
マーガレット: 素敵な趣味ですね。……さて、もう少し冷やしましょうか。
石川: マーガレットさんは、アメリカの病院から来たんですよね? 研修プログラムでしたっけ。
マーガレット: ええ、そうです。日本の医療システムを学ぶために来ました。大きな病院だけじゃなくて、こういう地域のクリニックや訪問看護についても勉強しています。
石川: 病院か……。僕は苦手だなあ。
マーガレット: どうしてですか?
石川: 日本の病院って、いつも混んでるし、待たされるし。それに、ちょっとした怪我で行くのは大袈裟な気がして。**昔の癖が抜けないんですよ……ここでは医者に行くのが嫌なんです。**
マーガレット: 「昔の癖」というのは、南極でのことですか?
石川: ええ。南極の観測基地にいた頃は、近くに病院なんてありませんでしたから。多少の怪我や痛みは、我慢して仕事をするのが当たり前でした。「サバイバルモード」ですね。痛いなんて言っていられない環境でしたから。
マーガレット: なるほど。厳しい環境だったんですね。でも、石川さん。
石川: はい?
マーガレット: ここは南極じゃありません。東京のマンションです。**「ただ我慢する」必要はないんですよ。助けを求めてもいいんです。**
石川: ……助けを求めてもいい、ですか。
マーガレット: そうです。私たちのような専門家がすぐ近くにいますからね。頼ってください。
石川: ……そうですね。ありがとうございます、マーガレットさん。なんだか、少しホッとしました。
マーガレット: よし、十分に冷えましたね。赤みはありますが、これなら大丈夫でしょう。包帯を巻きますね。
石川: すみません、手当てまでしてもらって。手際がいいですね、さすがプロだ。
マーガレット: 仕事ですから。……ああ、そうだ。石川さん、写真がお上手なんですよね?
石川: ええ、まあ。どうしてですか?
マーガレット: 実は私、趣味で編み物をしているんです。セーターとか、あみぐるみの人形とか。それを作って、ネットで売りたいと思っているんですけど……。
石川: いいじゃないですか! 日本の手芸品は海外でも人気がありますよ。
マーガレット: でも、写真が全然ダメなんです。私が撮ると、色が変になったり、ピンボケしたりして。作品の可愛さが全然伝わらなくて困っているんです。
石川: なるほど。商品の写真は、光の当て方が重要ですからね。スマホだと難しいかもしれません。
マーガレット: そうなんです。そこで相談なんですけど……もしよかったら、石川さんに写真を撮ってもらえませんか?
石川: 僕がですか?
マーガレット: もちろん、タダとは言いません。私が石川さんの手の火傷を完治するまでケアします。その代わり、私の作品をきれいに撮ってください。どうでしょう? 「ご近所交換プログラム」です。
石川: 「ご近所交換プログラム」か……。いいですね、それ! 南極にはなかったシステムだ。喜んで引き受けますよ。
マーガレット: よかった! 成立ですね。
石川: ただし、この手が治ってからですよ。今はカメラを持てませんから。
マーガレット: もちろんです。しっかり治しましょうね。
石川: いいですね。その角度、すごくいい。編み目の質感がきれいに出ています。……はい、撮りますよ。
マーガレット: わあ、すごい! パソコンの画面で見ると全然違いますね! 私の作ったあみぐるみが、まるで生きているみたい。
石川: 自然光をうまく使うのがコツなんです。部屋の照明だと色が黄色くなっちゃうので、窓際で撮るのが正解ですね。
マーガレット: さすが石川さん。お願いして本当によかった。これならネットショップに出せそうです。
石川: お役に立ててよかったです。それに、この手のおかげでもありますし。
マーガレット: どれどれ、ちょっと見せてください。……うん、きれいになってきましたね。水ぶくれも引いています。
石川: **味噌は塗っていませんよ。おばあちゃんの迷信より、現代医学の方が効きますね。**
マーガレット: 当たり前です。でも、お風呂に入る時はどうしているんですか?
石川: それですよ。手を濡らさないように、コンビニのビニール袋をかぶせて、輪ゴムで止めて入ってるんです。すごく格好悪いですよ。誰にも見られたくない姿です。
マーガレット: ふふ、想像できます。でも、濡らさないのは偉いですね。その調子なら、あと数日で包帯も取れると思いますよ。
石川: よかった。実は今夜、大事な予定があるんです。
マーガレット: おや? デートですか?
石川: まあ……そんなところです。同じマンションに住んでいる女性なんですけど、彼女を食事に招待していて。
マーガレット: まあ、素敵! 手料理を振る舞うんですか?
石川: はい。でも今回は火を使わないメニューにしました。冷製スープと、刺身のカルパッチョです。これなら火傷の心配もありませんから。
マーガレット: 賢明な判断ですね。
石川: もう失敗はしません。カメラも今日はしまっておきます。
マーガレット: そうしてくださいね。料理中に窓の外を見ないこと。たとえ珍しい鳥が飛んできても、無視ですよ?
石川: 了解です、ナース・マーガレット。鳥よりも、目の前の彼女に集中します!

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