| カナメ: はあ……。やっと終わった……。 |
| マーガレット: カナメさん、お疲れ様でした! |
| カナメ: お疲れ様、マーガレットさん……。いやあ、今日は本当に長かったですね。足がもう、棒みたいですよ。 |
| マーガレット: 本当ですね。今日は特に忙しかったですから。私も足がパンパンです。ずっと立ちっぱなしでしたもんね。 |
| カナメ: そうそう。休憩もあんまり取れなかったし……。ああ、早く家に帰って、泥のように眠りたい……。ベッドが僕を呼んでる気がします。 |
| マーガレット: えっ? カナメさん、何を言ってるんですか? 寝ちゃダメですよ! |
| カナメ: え……? どうしてですか? 看護師にとって、睡眠は命ですよ……。 |
| マーガレット: 今日は何曜日ですか? |
| カナメ: 金曜日ですけど……。 |
| マーガレット: 金曜日の夜は、映画の日じゃないですか! 先週、約束しましたよね? 「今週の金曜日は、仕事のあとに映画を見てリラックスしよう」って。 |
| カナメ: ああっ! そうでした……! すみません、完全に忘れていました。あまりにも疲れていて、記憶が飛んでましたよ。 |
| マーガレット: もう、しっかりしてくださいよ。映画を見れば、仕事のストレスなんて吹き飛びますから! リフレッシュが必要ですよ、カナメさん。 |
| カナメ: 確かにそうですね。このまま家に帰っても、仕事のことを考えちゃいそうですし……。わかりました。映画、行きましょう! 気分転換が必要ですね。 |
| マーガレット: よかった! 私はこの街に来たばかりだから、映画館の場所がよくわからないんです。カナメさん、いいところを知っていますか? |
| カナメ: ええ、任せてください。ここから歩いて行けるところに、すごくいい映画館があるんです。 |
| マーガレット: へえ、どんなところですか? |
| カナメ: 椅子がすごくいいんですよ。リクライニングシートで、ゆったり座れるんです。疲れた看護師には天国みたいな場所ですよ。 |
| マーガレット: わあ、それは最高ですね! 早く座りたいです。 |
| カナメ: でしょう? こっちです。歩いて10分くらいかな。 |
| マーガレット: 東京の夜は明るいですね。私の故郷とは全然違います。 |
| カナメ: マーガレットさんの故郷は、どんなところなんですか? |
| マーガレット: アメリカのニュージャージー州なんですけど、もっと静かなところです。私の家の周りには、あまり高いビルはありませんでした。 |
| カナメ: そうなんですか。じゃあ、東京はちょっとうるさいかもしれませんね。 |
| マーガレット: うーん、賑やかで楽しいですけど、たまに静かな時間が欲しくなりますね。私、編み物とか手芸が好きなんです。故郷の家には、手芸専用の部屋があったんですよ。そこで静かに作業するのが好きでした。 |
| カナメ: へえ、専用の部屋ですか! それはすごいですね。東京のマンションじゃ、なかなか難しいかなあ。 |
| マーガレット: そうなんです。今は狭い部屋だから、ちょっと寂しいです。カナメさんは、休みの日は何をしているんですか? |
| カナメ: 僕はアウトドア派ですね。実家が石川県なんですけど、山が多いところなんです。だから、昔から山登りが好きで。今でもたまに、休みの日に山に行きますよ。 |
| マーガレット: 山登り! すごいですね。カナメさん、体力がなさそうに見えて、実はタフなんですね。 |
| カナメ: 「体力がなさそう」は余計ですよ! まあ、自然の中にいると落ち着くんですよね。 |
| マーガレット: いいですね。あ、そういえば、カナメさんのアパートの名前、なんでしたっけ? すごく面白い名前でしたよね。ええと……「ダブル・ピーナッツ・マンション」? |
| カナメ: 違いますよ! ピーナッツじゃなくて、アーモンドです。「メゾン・トリプル・アーモンド」です。 |
| マーガレット: ああ、そうでした! 「トリプル・アーモンド」! なんでそんな名前なんですか? 大家さんがナッツ好きなんですか? |
| カナメ: 多分そうじゃないかな……。僕も初めて見たとき、二度見しましたよ。でも、中身は普通のマンションですからね。 |
| マーガレット: ふふふ。面白いですね。あ、あそこに見えるのが映画館ですか? |
| カナメ: ええ、そうです。着きましたよ。 |
| カナメ: さて、何を見ましょうか。今の時間は……これと、これが見られますね。 |
| マーガレット: そうですね。カナメさんは何が見たいですか? |
| カナメ: これなんかどうですか? 『恋するベーカリー・パニック』。ポスターを見てくださいよ。主人公が顔中小麦粉だらけになってる。絶対笑えますよ。 |
| マーガレット: ええー? ラブコメですか? うーん、ちょっと子供っぽくないですか? ストーリーも読めちゃうし……。最後に二人がキスして終わるだけでしょ? |
| カナメ: それがいいんじゃないですか! 疲れているときは、こういう平和な映画が一番ですよ。頭を使わなくていいし。 |
| マーガレット: つまんないですよ。せっかく映画館に来たんだから、もっとドキドキしたいです。 |
| カナメ: ドキドキ……? |
| マーガレット: これですよ、これ! 『呪われた第13病棟』! 今、SNSですごく話題になってるホラー映画です。「怖すぎて最後まで見られない人が続出」だって! |
| カナメ: いやいやいや! 無理です! 絶対に無理です! タイトルからしてダメじゃないですか。「病棟」って……僕たちの職場ですよ? |
| マーガレット: だからこそ面白いんじゃないですか! リアルで! |
| カナメ: マーガレットさん、僕たちは毎日、命に関わる現場で働いているんですよ? リアルな緊張感は仕事だけで十分です。休みの日にまで、心臓バクバクさせたくないですよ……。 |
| マーガレット: 何言ってるんですか。ホラー映画の恐怖は「安全な恐怖」なんですよ。ジェットコースターと同じで、アドレナリンが出て、逆にスカッとするんです! |
| カナメ: 僕はスカッとしませんよ、寿命が縮むだけです。ほら、こっちのラブコメにしましょうよ。主演の俳優、すごく有名でかっこいい人ですよ? レビューにも「心が温まる」って書いてありますし。 |
| マーガレット: カナメさん……もしかして、怖いんですか? |
| カナメ: こ、怖くはないですけど……ただ、リラックスしたいだけです。 |
| マーガレット: あんなに高い山に登る人が、たかが映画を怖がるなんて変ですねえ。山の方がよっぽど危険なのに。 |
| カナメ: それとこれとは話が別です! 山は自分の足でコントロールできますけど、お化けはコントロールできませんから! |
| マーガレット: じゃあ、こうしましょう。もしこのホラー映画に付き合ってくれたら、今日のお菓子と飲み物、全部私が奢ります。 |
| カナメ: え……全部? |
| マーガレット: はい。Lサイズのポップコーン、バター増量で。それに好きなチョコもつけていいですよ。 |
| カナメ: うーん……Lサイズのポップコーン……バター増量……。 |
| マーガレット: どうですか? |
| カナメ: ……わかりました。負けましたよ。その代わり、もし今夜悪夢を見たら、夜中でもマーガレットさんに電話しますからね! |
| マーガレット: はいはい、いつでもどうぞ! さあ、売店に行きましょう! |
| カナメ: しかし、映画館のフードって、なんでこんなに高いんでしょうね。これだけでランチが食べられますよ。 |
| マーガレット: 雰囲気代ですよ、雰囲気代! すみません、Lサイズのポップコーン一つ、バター多めでお願いします。あと、コーラを二つ。 |
| カナメ: あ、僕のは氷なしでお願いします。お腹冷えちゃうんで。 |
| マーガレット: 了解です。一つは氷なしで。 |
| カナメ: あと、これも追加していいですか? ピーナッツバターが入ったチョコレート。 |
| マーガレット: もちろんです。約束ですからね。……はい、これでお会計お願いします。 |
| カナメ: ごちそうさまです。甘いものと塩辛いもの、最強の組み合わせですね。 |
| マーガレット: でしょ? これがあれば、怖い映画もへっちゃらですよ。 |
| カナメ: ……まあ、正直言うと、ちょっとだけ楽しみになってきました。 |
| マーガレット: おっ、そうですか? |
| カナメ: 怖いもの見たさっていうんですかね。山登りの前の緊張感に少し似てるかもしれません。「これから大変なことが起きるぞ」っていう感じが。 |
| マーガレット: そうそう! ジェットコースターがゆっくり上に登っていく感じですよね。そして、急に落ちるんです! キャーッて! |
| カナメ: 落ちる話はやめてください……。 |
| マーガレット: あはは。さあ、シアター7ですね。行きましょう。 |
| カナメ: ここの通路、ふかふかですね。 |
| マーガレット: 本当だ。高級感がありますね。 |
| カナメ: 懐かしいなあ。僕が子供の頃、地元の映画館はこんなに立派じゃなかったですよ。スクリーンも一つしかなくて。 |
| マーガレット: えっ、一つだけですか? |
| カナメ: そうなんです。だから、選ぶ権利なんてなかったんですよ。「今やってる映画を見る」しかなかったんです。 |
| マーガレット: それはシンプルですね。私が育った場所は大きなショッピングモールがあって、映画館もすごく大きかったんです。スクリーンが20個くらいあって。 |
| カナメ: 20個!? それはすごい……。 |
| マーガレット: でも、選択肢が多すぎて、友達とどれを見るか決めるだけで1時間くらいかかっちゃうんですよ。逆に大変でした。 |
| カナメ: なるほど、贅沢な悩みですね。 |
| マーガレット: 私、普段は編み物とか静かな趣味が好きなんですけど、映画だけは派手なのが好きなんですよね。バランスを取ってるのかな。 |
| カナメ: 確かにそうかもしれませんね。僕は逆かも。仕事がハードだから、普段は静かな映画を選んで、現実逃避してるんです。でも、たまにはこうやって自分の殻を破るのもいいかもしれませんね。 |
| マーガレット: その通りです! 新しい刺激が必要ですよ。 |
| カナメ: 席はこの辺ですね。真ん中の列。 |
| マーガレット: ここなら画面がよく見えますね。 |
| カナメ: よーし、座り心地は最高だ。……このポップコーン、抱えて持ってていいですか? お化けが出たときの盾にしますから。 |
| マーガレット: 盾にはなりませんよ! さあ、始まりますよ。 |
| マーガレット: いやあ、すごかったですね! あのラストシーン、予想外でした! |
| カナメ: …………。 |
| マーガレット: カナメさん? 顔色が真っ白ですよ? 大丈夫ですか? |
| カナメ: ……魂が抜けました。怖すぎますよ、あれは……。 |
| マーガレット: でも、カナメさん、すごかったですね。幽霊が鏡に映った瞬間、私の腕を思いっきり掴んだじゃないですか! 痛かったですよー。 |
| カナメ: そ、それは……違います! あれは、マーガレットさんの血圧を測っていたんですよ! 僕は看護師ですからね、興奮しすぎてないかチェックしたんです! |
| マーガレット: はあ? 何ですかその言い訳! 映画館で血圧測定ですか? |
| カナメ: そうです、職業病です! ……でも、まあ、認めるのは癪ですけど、映画としては面白かったですね。ただ驚かせるだけじゃなくて、ストーリーが深かった。 |
| マーガレット: でしょ? 悲しい物語でしたよね。 |
| カナメ: ええ。人間ドラマがありました。……まあ、半分くらいは手で目を覆ってましたけど。 |
| マーガレット: ふふふ。じゃあ、次はカナメさんの番ですね。次はカナメさんが見たいって言ってた、あのラブコメを見ましょうか。 |
| カナメ: 本当ですか? やった! 平和な世界に行きたいです。 |
| マーガレット: ええ、付き合いますよ。同僚としての付き合い、ということでね。 |
| カナメ: もちろんです。デートじゃなくて、「看護師リフレッシュ会」ですね。 |
| マーガレット: 外に出ると、空気が気持ちいいですね。夜の東京も綺麗だなあ。 |
| カナメ: そうですね。昼間の慌ただしさが嘘みたいだ。……そういえば、マーガレットさんはまだ東京の観光地とか、あんまり行ってないんですよね? |
| マーガレット: ええ、仕事が忙しくて。 |
| カナメ: じゃあ、今度の週末、博物館に行きませんか? 上野の方にいい美術館や博物館がたくさんあるんです。静かで、ゆっくりできますよ。 |
| マーガレット: あ、いいですね! 博物館、大好きです。行きたいです! |
| カナメ: じゃあ決まりですね。博物館を見て、そのあと美味しいランチでも食べましょう。 |
| マーガレット: 楽しみにしてます! |
| カナメ: それじゃあ、今日はここで。気をつけて帰ってくださいね。家に着いたらメールしてください。生存確認しますから。 |
| マーガレット: はいはい、子供扱いしないでくださいよ。 |
| カナメ: いや、暗い夜道ですからね。後ろから「何か」がついてくるかもしれませんよ……? |
| マーガレット: やめてくださいよ! カナメさんこそ、今日は電気をつけたまま寝るんでしょう? |
| カナメ: 当たり前です。僕は暗いのが怖いんじゃないんです。暗闇の中にいる『何か』が怖いんです。論理的な区別ですよ。 |
| マーガレット: はいはい、わかりました。じゃあ、お疲れ様でした! |
| カナメ: お疲れ様でした! |
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